マンション購入は、どうしても価格や立地、間取りなどの理想条件を第一に考えてしまい、災害リスクは後回しになりがちです。ですが、千葉県は東京湾沿岸、太平洋沿岸、台地、丘陵、河川流域など、エリアごとに地形の特徴が異なるため、注意すべき災害の種類も変わってきます。
そんな千葉県でマンションを買う場合、事前に何を確認する必要があるのか、入居後はどう災害に備えればいいのかを千葉県内で防災活動に携わる白尾克伸さんに伺いました。
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1.土地に「絶対安全」はない。リスクを想定し、警戒することが大事

ーー家を購入する際、災害リスクは後回しになりがちです。まず、どのようなリスクを想定しておくべきでしょうか。
白尾:想定しておくべき代表的な自然災害には、地震や津波、台風、洪水、土砂災害などがあります。さらに地震や津波をきっかけに、臨海部の工業地帯で火災や有害物質の流出といった二次被害が生じることもあります。一つの災害だけでなく、複数のリスクを想定しておくことが大切です。
ーーでは、千葉県で比較的安全と言えるエリアはありますか?
白尾:「あらゆる災害に対して安全」と言い切れる場所はありません。一般論でいえば、千葉県北部の下総台地や南部の房総丘陵のように標高がある場所は、津波や高潮、液状化のリスクが相対的に低いとされています。
ただし、同じ台地や丘陵でも谷筋や河川の近くは洪水や液状化の可能性がありますし、斜度が30度前後あるような急傾斜な場所では、土砂崩れや崩落のリスクも考えられます。
一方で、東京湾沿岸の埋立地は、地盤の条件から地震による液状化のリスクが指摘されており、太平洋沿岸の一部では、揺れや津波への警戒が必要です。利根川や江戸川の流域では、大雨による洪水の可能性もあります。つまり、どんな場所でも自然災害リスクはあると考えるべきでしょう。

※出典:市川市自然博物館「2 かたち(地形)」
ーー地形意外にも、見落としがちなリスクはありますか?
白尾:近年は、地球温暖化の影響で気象が不安定になっているため、過去に類を見ない大雨や強風が起きています。千葉県内でも、過去に茂原市の西側や市原市の北部などでスポット的に竜巻被害が出た地域がありました。ですから、過去に被害があった地域では、一定の警戒が必要でしょう。
それから、沿岸部の再開発エリアは魅力的な反面、人口集中による新たなリスクもあります。災害時の物資不足や、避難所の収容不足です。感染症対策の意味で収容人数が制限されてしまう避難所もあるので、そこに大きなマンションから人が押し寄せると、生活に支障が出てしまう可能性も否めません。
2.ハザードマップや地域防災計画をチェックして、自分の足でも歩いてみよう

ーー物件の立地を選ぶ際、災害リスクはどう調べるのがいいでしょうか。
白尾:まずは、自治体が公開している防災の資料を確認することです。たとえば、水防法に基づいて、洪水や雨水出水、津波、高潮、急傾斜での土砂災害といった水害系のリスクに備えるために整備された「ハザードマップ」という資料があります。
検討中の物件の位置を地図上で正確に押さえて、近くの川や浸水の想定区域、急傾斜地との位置関係を見ていくといいでしょう。ハザードマップはネットで検索できたり、行政の危機管理課などに問い合わせると教えてもらえたりします。
ただし、ハザードマップはあくまでも水害に関する情報なので、火災や地震による災害の軽減、傷病者の適切な搬送を目的とした消防法に関する情報は記載されていません。ハザードマップだけでなく、複数の情報を確認して、総合的に判断することが大切です。
ーーでは、ほかに確認しておくといい資料はありますか?
白尾:各自治体が作成している「地域防災計画」を一読していただきたいですね。過去の災害の履歴やそのときの状況、歴史などを確認できます。
さらに、災害時の行政の動きや避難所の場所、収容人数、市が備蓄している物品リストまで確認できます。行政用語が多くて一見難しそうに見えますが、意外と読めると思いますよ。冊子がなければ自治体で閲覧を頼めますし、インターネットで検索することもできます。
※参考:千葉県総務部デジタル改革推進局デジタル推進課「ちば情報マップ」
※参考:ハザードマップポータルサイト
ーー物件の周辺についても、自分の目で確認しておいたほうがいいでしょうか。
白尾:そうですね。実際に歩いてみることが大事です。それも、できれば雨など条件の悪い日に歩いてみるといいでしょう。
具体的に確認したいのは、深いアンダーパス(掘り下げ式の立体交差道路)がないか、避難の妨げになる急な坂や構造物はないか、近くに川や水路はないか、火災や爆発の危険性のあるような工場はないか、といった点です。
水路などは、大雨時にガードレールが見えなくなるほど冠水することがあります。「自分が被災者になったとき、このルートを通れるか」という目線で歩くことが大切です。あわせて医療機関と交番、公衆電話、避難所、井戸や湧水などの場所も把握できたらベストですね。
また、周辺住民と話せる機会があるなら、いろいろ聞いてみるといいでしょう。やはり長く住んでいる方のお話は参考になりますから。
3.建物の強さだけでなく、防災設備や管理体制も確認しよう

ーーマンションそのものについては、何をチェックすべきでしょうか。
白尾:建築の専門家ではありませんが、まず耐震性でしょうね。近年に建てられたマンションは、新しい建築基準法に基づいて施工されていますが、中古マンションの場合は建築時期の確認が大事です。
昭和56年6月以前に建てられたり、申請が出されたりした建物は、古い耐震基準で建てられている可能性があるので、その後に改修や補強が行われているかを確認したいところです。
ーー防災設備や管理体制の面で、確認すべきことはありますか?
白尾:警報設備や消火設備、避難設備のほか、バルコニー隔板、換気ダクト内の防火ダンパー、廊下や階段の排煙機、防災備蓄倉庫、マンホールトイレの有無も確認できればベストです。
さらに、設備だけでなく自主防災組織や管理組合が機能しているか、防災訓練が実施されているかもチェックしましょう。管理費や修繕積立金などで、修繕や防災対応のための積立がきちんとできているかも見ておきたいですね。
ーー高層マンションの場合は、階によってリスクも変わるのでしょうか。
白尾:変わりますね。やはり絶対安全な階というのはないと思います。上層階は長周期振動の影響で揺れが大きくなりやすく、家具の転倒や物の飛散が起きやすいです。また、エレベーターが止まれば、生活への影響もあります。
中層階は、上層階より揺れが小さいケースが多いものの、地震の特性によっては中層階で揺れが増幅されることもあります。エレベーター停止の影響は、高層階と同様です。
下層階は揺れによるリスクは比較的小さい一方で、地域によっては津波や豪雨による浸水リスクが高くなります。火災時の避難のしやすさでは、低層階のほうが比較的安全と言えそうです。
4.入居後も避難や連絡方法を確認して、日頃から備えておこう

ーー入居後の災害への備えについても教えてください。家族で確認しておきたいことはありますか?
白尾:まずは連絡手段です。災害時はケータイやスマホが使えなくなる可能性があります。基地局も停電が長引けば止まってしまうので、171災害用伝言ダイヤルやweb171の使い方を家族で共有しておくといいですよ。
家族がそれぞれ別の場所にいる時間帯に災害が起きると、連絡を取る手段は意外と限られます。公衆電話は復旧の優先順位が高くつながりやすいので、近くの設置場所を把握したうえで、10円玉も持っておくと安心です。
ーー避難所に行くか在宅避難にするかは、どう判断すべきなのでしょうか。
白尾:避難の本質は「災いから遠ざかること」です。それは、必ずしも公設の避難所に行くこととは限りません。自宅が危険な場所にあったり、すでに被害を受けたりした場合は避難所に向かう必要がありますが、そうでなければ在宅避難のほうが安全な場合もあります。
コロナ禍以降、避難所は感染症対策で収容人数を抑えていますし、避難途中で被災する可能性もあります。自宅の危険度をハザードマップや行政情報で把握したうえで判断することが大切です。
ーー火災が発生した場合の避難は、どう考えればいいでしょうか。
白尾:何よりも落ち着いて行動することです。エレベーターは使えませんから、階段での避難になりますが、歩行が困難な方の階段での避難は、ご家族の介助があっても大変です。1人での対処には限界があるので、安否確認も含めてご近所同士で声を掛け合い、協力することが重要。
日頃のお付き合いが希薄になりがちな時代ですが、いざというときに支え合える関係を築いておけるとよいですね。
ーー最後に、室内の安全対策についても教えてください。
白尾:対策の優先順位は、1日のうちで最も長く過ごす寝室からです。暗闇でも動けるよう、ベッドの近くに懐中電灯と厚手のスリッパを置いておきましょう。ケガをすると、それだけで自分が要支援者になってしまいます。
また、背の高い家具を壁にしっかり固定し、玄関や廊下、ドア付近の通路をふさぐような配置は避けること。一度にすべてやろうとせず、できるときに少しずつやっておくことが大切ですよ。